ロボット支援下手術


はじめに

当院では、令和8年1月に手術支援ロボット「da Vinci Xi サージカルシステム」を導入いたしました。
初症例を同年1月22日に行い、以降も準備が整った領域から段階的に活用を進めております。
ここでは、ロボット支援下手術についてご紹介いたします。

目次
  1. ロボット支援下手術とは
  2. ロボット支援下手術の歴史
  3. 従来の手術(腹腔鏡手術)との違い
  4. ロボット支援下手術の特徴
  5. ロボット支援下手術の安全性と有用性
  6. ロボット手術の適応

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1. ロボット支援下手術とは

 ロボット支援下手術は、炭酸ガスで充満した腹腔内にカメラ・鉗子を挿入し手術する腹腔鏡手術を、外科医が医療用ロボットを操作して行う手術です。この手術支援用ロボットは各社から数種類販売されていますが、最も普及している Intuitive Surgical 社の da Vinci Surgical System (DVSS)は、術者が手元で操作する Surgeon console 、 患者様に取り付けられ体内に入る鉗子を動かす Patient cart 、腹腔内の画像を映し出しエネルギー出力・供給を司る Vision cart の3つのコンポーネントで構成されております (図1)。Patient cart のロボットアームに取り付けられた鉗子は Surgeon console 内で術者が動かした手の動きに合わせてリアルタイムに再現され、 3D画像で描出される Surgeon console では、カメラ操作を術者自身で行うことができるため、従来の腹腔鏡手術と比較しより繊細な手術手技が可能となっております。

図1: da Vinci Surgical System のコンポーネント (画像右から Surgeon console, Patient cart, Vision cart)


2. ロボット支援下手術の歴史

 ロボット支援下手術は、元々アメリカで戦場の負傷者をできるだけ早期に現場で治療することが目的で開発されました。その後、戦場で実用化されることはなく、民間企業へ移譲され、現在の Intuitive Surgical 社が DVSS を開発するに至りました。日本における臨床応用は2000年に慶應義塾大学と九州大学で開始されましたが[1]、医療機器として承認・保険収載されたのは、2012年の前立腺手術からであり、長年の年月を要しました。その後、消化器外科領域でも薬事承認を得るため、先進医療として他施設共同前向きコホート試験を藤田医科大学が主導となって行い、ロボット支援胃癌手術の安全性と有効性を証明しました[2]。その結果、2018年4月に胃癌、食道癌、直腸癌、膀胱癌、肺癌、子宮体癌、縦隔悪性腫瘍の7つの領域の癌と、子宮筋腫、心臓弁膜症、縦隔良性腫瘍の3つの良性疾患に適応が拡大、さらに、2020年4月には膵臓癌、2022年4月に結腸癌、肝癌、総胆管拡張症が追加適応となり、ほぼ消化器外科全領域の悪性腫瘍手術に対しロボット支援手術が保険収載されました。


3. 従来の手術(腹腔鏡手術)との違い

 消化器外科領域の手術は、開腹手術から腹腔鏡手術に移行し定着していますが、腹腔鏡手術の特徴は、ポートと呼ばれる腹腔内へのアクセス器具を介して腹腔内に炭酸ガスを充満し、挿入した内視鏡の映像をモニターに映しながら、鉗子を用いて把持・剥離・切開を行い目的臓器を摘出する手術です。しかしながら、腹腔鏡手術の欠点として、直線的な動きしか出来ないこと、組織を把持している時の手振れのため出血や視野が動いてしまうなどの人為的作用が手術に影響する点が挙げられます。ロボット支援下手術では、これらの欠点を補完した手術が可能となります。


4. ロボット支援下手術の特徴

 ロボット支援下手術の特徴は、患者様から少し離れた Surgeon console と呼ばれるボックス内で、マスターコントローラーに指を通し操作することで (図2)、患者様に接続しているロボットアームの鉗子を腹腔内で自由に動かすことができます (図3)。さらに手振れ補正機能、多関節機能、三次元高解像度画像、モーションスケールという機能を利用して手術を行います。手振れ補正機能とは、通常の腹腔鏡手術ではポート内に鉗子を入れ組織を把持牽引する際に、手ぶれによる小血管の破綻・出血が起こりうる状況を、ロボットアームに装着した鉗子で把持牽引し固定することで、安定した視野が確保され出血を回避できるというものです (図4)。多関節機能とは、ロボットアームが有する7つの関節により腹腔内で自由に鉗子の先端が調整可能となった機能で、直線的な動きである従来の腹腔鏡手術では届かなかった部位へ容易に手術操作を行えるようになりました (図5)。さらに、三次元画像とズーム機能による拡大視野の効果で臓器間や鉗子などの位置情報がより正確となり、出血の少ない精緻な手術が可能となります。モーションスケール機能とは、実際の手の動きが1/2から1/3に縮小されて術野に反映される機能で、鉗子操作の精度が向上します。さらに、カメラの視野も自由に執刀医の意思で移動が可能であり、手術時間の短縮につながるため、従来の腹腔鏡手術に比べ安全性がさらに向上した低侵襲な手術が可能となりました。

図2: マスターコントローラー

動画: マスターコントローラー

図3: ロボット鉗子

動画: ロボット鉗子

図4: 手振れ補正機能
図5: 多関節機能

5. ロボット支援下手術の安全性と有用性

 本邦におけるロボット支援下手術の安全性を最初に示したものは、前述の胃癌手術における先進医療で、厚生労働省承認の下、藤田医科大学主導で行われた多施設共同前向き単群臨床試験です。胃癌手術後合併症として主な膵液漏、縫合不全、腹腔内感染症などの全合併症発症率は、従来の腹腔鏡手術 (6.4%) に比較し、ロボット手術では 2.45% と軽減され、この成績をもって12のロボット術式が保険収載されました[2]。その後、胃癌領域では日本の全国データ (National Clinical Database: NCD) への前向き登録が初期から実施され、短期成績においては在院日数が有意に短縮し、腹腔鏡手術と遜色なく全国に安全に導入できたこと[3]、長期成績においては、全生存率が腹腔鏡手術よりもさらに有意に向上していることが示されました[4]

 直腸癌に対するロボット支援下手術では、2017年の ROLARR 試験という最初の大規模ランダム化比較試験がありますが、主要評価項目の開腹移行率で腹腔鏡手術 (12.2%) とロボット手術 (8.1%) に統計学的有意差がなく優越性は証明されませんでした[5]。ただし、男性、低位前方切除などの困難症例においてはロボット支援下手術の開腹移行率が低いことが示されました。本邦では2021年に NCD のデータから、開腹移行率に加え在院日数、在院死亡率などもロボット支援下手術群で有意に低いことが証明され、ロボット支援下手術の有用性が示されたものと考えられます[6]


6. ロボット手術の適応

【消化器外科領域】

 現在、本邦における消化器外科領域でロボット支援下手術が適応となっている術式は以下の通りです。

<食道領域>

  • 胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術
  • 縦隔鏡下食道悪性腫瘍手術

<胃領域>

  • 腹腔鏡下胃切除術
  • 腹腔鏡下噴門側胃切除術
  • 腹腔鏡下胃全摘術

<大腸領域>

  • 腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術
  • 腹腔鏡下直腸切除・切断術(切除術・低位前方切除術・切断術・超低位前方切除術・経肛門吻合を伴う切除術)

<肝臓領域>

  • 腹腔鏡下肝切除術(部分切除・外側区域切除・亜区域切除・区域切除・区域切除以上)

<膵臓領域>

  • 腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術
  • 腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術

当院で現在行っているロボット支援下手術は、大腸・直腸手術ですが、ロボット専門医の資格を有する医師が常勤でおりますので、順次適応を拡大していく予定です。

【泌尿器科領域】

 現在、本邦における泌尿器科領域でロボット支援下手術が適応となっている術式は以下の通りです。

<前立腺>

  • 前立腺悪性腫瘍手術
  • 腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術

<腎・尿管>

  • 腎(尿管)悪性腫瘍手術
  • 腹腔鏡下腎(尿管)悪性腫瘍手術
  • 腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術
  • 腹腔鏡下尿管悪性腫瘍手術

<膀胱>

  • 膀胱悪性腫瘍手術
  • 腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術

【婦人科領域】

 現在、本邦における婦人科領域でロボット支援下手術が適応となっている術式は以下の通りです。

  • 腹腔鏡下腟断端挙上術
  • 腹腔鏡下仙骨腟固定術
  • 腹腔鏡下膣式子宮全摘術
  • 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)

上記手術は、内視鏡手術用支援機器(ロボット)を用いて腹腔鏡下手術を行うことが保険診療上認可されている術式です。
また、これらの術式はそれぞれの領域における施設基準が設けられており、特に一定の年間手術症例数以上こなしている病院で施行可能となっております。

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【参考文献】

  1. Hashizume M, Sugimachi K. Robot-assisted gastric surgery. Surg Clin North Am. 2003;83:1429-44.
  2. Uyama I, Suda K, Nakauchi M, Kinoshita T, Noshiro H, Takiguchi S, et al. Clinical advantages of robotic gastrectomy for clinical stage I/II gastric cancer: a multi-institutional prospective single-arm study. Gastric Cancer. 2019;22:377-85.
  3. Suda K, Yamamoto H, Nishigori T, Obama K, Yoda Y, Hikage M, et al. Safe implementation of robotic gastrectomy for gastric cancer under the requirements for universal health insurance coverage: a retrospective cohort study using a nationwide registry database in Japan. Gastric Cancer. 2022;25:438-49.
  4. Suda K, Sakai M, Obama K, Yoda Y, Shibasaki S, Tanaka T, et al. Three-year outcomes of robotic gastrectomy versus laparoscopic gastrectomy for the treatment of clinical stage I/II gastric cancer: a multi-institutional retrospective comparative study. Surg Endosc. 2023;37:2858-72.
  5. Jayne D, Pigazzi A, Marshall H, Croft J, Corrigan N, Copeland J, et al. Effect of Robotic-Assisted vs Conventional Laparoscopic Surgery on Risk of Conversion to Open Laparotomy Among Patients Undergoing Resection for Rectal Cancer: The ROLARR Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;318:1569-80.
  6. Matsuyama T, Endo H, Yamamoto H, Takemasa I, Uehara K, Hanai T, et al. Outcomes of robot-assisted versus conventional laparoscopic low anterior resection in patients with rectal cancer: propensity-matched analysis of the National Clinical Database in Japan. BJS Open. 2021;5.